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リミット PAGE10

last update Última actualización: 2025-09-13 09:50:01

「――それで、こちらが絢乃さんのお友だちの」

「中川里歩です。初めまして、桐島さん。絢乃がいつもお世話になってます」

 僕は絢乃さんに紹介してもらおうとしたのだが、それより先に里歩さん自らが口を開いた。彼女は控えめな絢乃さんと対照的に、積極的な女性らしい。そしてちょっと世話焼きなところもあるのかな、というのは僕の個人的な感想だが、あながち間違ってもいないようである。

「ああ、いえ。初めまして、里歩さん。桐島貢と申します。よろしく」

 きっと里歩さんも絢乃さんと同い年だが、僕はキッチリと敬語で彼女に挨拶をした。その時点ではまだ、絢乃さんをお世話していたわけではなかったが、その後に実際秘書としてそうなったので、これも間違いではなかった。

 そして僕が敬語だったのは、この日が初対面だった里歩さんのことを信用するに値する人かどうか判断しきれていなかったからでもあった。

「桐島さん、もっと肩の力抜いて。里歩はわたしと同い年だよ」

「そうですよー。ほら、リラーックスして」

 そんな僕の態度に絢乃さんは苦笑いされ、里歩さんと二人して僕の肩やら背中やらをポンポン叩き始めた。身長的に背中を叩いていたのは絢乃さんで、肩を叩いていたのは里歩さんだろう。

「……はあ」

 この時に僕が困った顔をしたのは、肩に感じる衝撃が強くて痛かったからである。彼女の腕力がなぜこんなにも強いのか、その理由を知ったのはこのすぐ後だった。

 ――僕がソファーに腰を落ち着けると、絢乃さんと里歩さんは「テーブルのセッティングがまだ残っているから」とリビングを抜け出した。加奈子さんやお手伝いさんの姿も見えなかったことから、女性陣はみんなキッチンにいるものと思われた。

 ……というわけで、リビングには僕と源一会長の二人きりになった。

「――桐島君、例の件、考えてくれたかな?」

 そう質問された時、僕は覚悟を決めた。あの依頼の返事をするのに、このタイミングが絶好の機会だと思ったのだ。もちろん、僕の中でもうすでに答えは出ていた。

「はい。僕が全身全霊、一生涯をかけて絢乃さんを支えていきます。会長秘書としても、一人の男としても」

「そうかそうか! ありがとう、桐島君」

「ですが、絢乃さんのお気持ちを第一に考えたいと思っておりますので。もし絢乃さんが他の男性を好きになられたら、僕は潔く身を引かせて頂きます。それでもよろしいで
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  • トップシークレット☆桐島編 ~お嬢さま会長に恋した新米秘書~   オフィスラブ、スタート! PAGE5

     加奈子さんも「母親として鼻が高い」と悪ノリして盛り上がっていらっしゃったが、絢乃さんはそのことに苦言を呈しておられた。「グループの評判が上がるのはいいけど、わたし個人まで有名になっちゃうのはちょっと……」と。 そして、それは僕も同感だった。彼女が大企業のトップとして表舞台に立つことは僕も秘書として大賛成だったが、有名人になってしまうことで彼女が妬みの対象となることは避けたかったのだ。 ボスである絢乃さんのスケジュール管理は、僕の仕事になる。万が一捌ききれない数の取材を受けてしまうとその皺寄せは僕に来てしまう、つまりは自分で自分の首を絞めてしまうということを意味していた。 だから、彼女から「受ける取材の数は最低限に絞ってほしい」と懇願された時、僕はこう答えたのだ。「分かってますよ。あなたが忙しくなりすぎたら、秘書である僕自身の首も絞めることになってしまいますからね。そこはこちらでどうにか調整します」「よかった! ありがとう!」 絢乃さんは満面の笑みで僕にお礼の言葉をおっしゃった。……そう、僕は彼女がこうしていつも笑顔でいられるようにしたいと思っていたのだ。お仕事中でもそれは変わらない。小川先輩の請け売りだが、それこそが僕の会長秘書としての〝愛〟なのだから。「僕は秘書として、あなたに気持ちよくお仕事をして頂けるよう、これから色々な工夫をしていこうと考えてます。――絢乃さん、コーヒーお好きですよね?」 これも先輩から仕入れた情報だったが、僕は絢乃会長にこんな質問をしてみた。 彼女がそれに対して「どうして知ってるの?」と首を傾げられたので、僕は小川先輩から聞かされた

  • トップシークレット☆桐島編 ~お嬢さま会長に恋した新米秘書~   オフィスラブ、スタート! PAGE4

    「大丈夫ですよ。僕はこう見えて、けっこうメンタル強いんで。そうでもなければ、僕はとっくに会社を辞めてます」 絢乃会長を安心させたくて、ついそんなことまで言ってしまった。 前の部署で、あんな上司の下で散々こき使われてきて、お前はよく会社を辞めずにいられたなと自分で自分に感心してしまう。何人もの同僚や先輩たちが退職していくのを身近で見てきたにもかかわらず、だ。やっぱり僕はメンタルが強靭にできているのだろうか。 でも、大好きな女性のためならどれだけ大変な仕事も苦に思わない。これはもう、愛の力としか言いようがないだろう。 それに対して絢乃さんが「桐島さん、前の部署で相当ひどい目に遭ってたんだね」と表情を曇らせておられると、加奈子さんが横から「なになに、何の話?」と口を挟まれ、首を傾げられた。加奈子さんはどうやら、総務課のパワハラの事実をご存じなかったらしい。ということは亡き源一前会長もそうだったということになる。 絢乃さんからその話を一通りお聞きになった加奈子さんは「う~ん」と唸った後、「あら……、あなた苦労してたのねぇ」と眉をひそめられた。「多分、あの人も知らなかったんじゃないかしら。知っていたらもっと早く助けてあげられたのに」 加奈子さんのこの言葉から、やっぱり先代はパワハラのことを把握されていなかったのだと僕は理解した。そして、彼がご自宅では会社や仕事に関する話題を避けておられたのだとも。 とはいえ、僕は異動したことで島谷課長との接点がほぼなくなり、完全に彼のターゲットからは外れたようなので、僕の中ではもう終わったも同然だった。「いえいえ、お気になさらず。もう終わったことですから」 少なくとも自分ではそう思っていて、自分にそう言い聞かせていたので、もう蒸し返してほしくなかったというのが本音だった。 それよりも、この先絢乃会長の姿勢が世間からどのように評価されるのか、ということの方が僕には重要だった。「――そういえば、今日の会見はTV中継されるだけでなくネットでも同時配信されるそうですよ。そしたら絢乃会長は一躍有名人になりますね」 そうなのだ。僕もその朝、久保から電話で聞かされて驚いた。 ネットで配信されるということは、TV中継だけされる場合よりも世間的に注目を集めるということ。ネット社会の現代では、昨日まで一般人だった人が一

  • トップシークレット☆桐島編 ~お嬢さま会長に恋した新米秘書~   オフィスラブ、スタート! PAGE3

     ふとルームミラーに視線を移すと、絢乃さんは視線を落としてスカートの裾のラインを見つめておられた。車内ではコートを脱がれていたので、僕にも彼女の制服姿の全身がはっきりと見え、彼女がどんな想いでこの日、この服装を選ばれたのか僕にも理解できた。 彼女は意志の強い女性だが、やっぱり少なからず迷いや心配はあったのだろう。それは少し憂いを帯びた彼女の表情から窺い知ることができた。「――ところで絢乃会長。そのお召し物は……、通われている学校の制服……ですよね」 僕がそのことを指摘すると、彼女は「ん? そうだよ」と顔を上げられた。きっと、僕からご自分の服装がどのように見えているのか気にされていたのだろう。もしかしたら、批判的な目で見られているのではないか、と。 でも、僕には彼女の覚悟が手に取るように分かったし、お亡くなりになった彼女のお父さまと約束したのだ。僕はいつでも絢乃さんの味方でいると。「……それが、あなたの並々ならぬ覚悟の表れということですね。どんな批判も甘んじて受け止める、と」 もちろん、そうなった時は彼女一人に非難を浴びせるつもりはなく、秘書である僕も一緒にと思っていた。それくらいしか、彼女をお守りする術を知らなかったのだ。 彼女は僕に「理解してもらえて嬉しい」とおっしゃった。やっぱり、秘書である僕に反対されたらどうしようかと気を揉まれていたらしいので、ご自身の信念を受け入れられたことを喜ばれたのだと。「まぁ、いくら反対したところで無駄なんだけどね。この子、あの人に似て頑固だから」 加奈子さんのこの辛辣なコメントに絢乃さんは困惑し、僕も「何もそこまでおっしゃらなくても」と思ったが、絢乃さんからの反論がないところを見るにこれは図星だったのだろうか。 僕も正直心配ではあるが、秘書の立場でボスがお決めになったことに異議は唱えられない。だからできる限り応援はしたいと自分の気持ちをお伝えすると、絢乃さんは花が咲いたような明るい表情で「ありがとう!」と言って下さった。「――では、そろそろ参りましょうね」 出発まで少し時間がかかってしまったが、僕は丸ノ内へ向けてクルマを発進させたのだった。 しばらく走らせたところで、僕は練習していた秘書らしい口調で、ちゃんとスピーチの原稿を用意しておいたので会見前に確認してほしい、と絢乃会長に言った。 僕とし

  • トップシークレット☆桐島編 ~お嬢さま会長に恋した新米秘書~   オフィスラブ、スタート! PAGE2

     このシステムは、今は亡き源一前会長が始められたらしい。が、それ以前の歴代会長も社員たちのために色々な工夫をして下さったと聞く。たとえば、秘書室と会長室からそれぞれ伸びる給湯室への通路。これも、絢乃会長のお祖父さまが秘書の負担を軽減するために設計してもらったのだとか。 きっと絢乃会長も、この先僕たち社員が働きやすくなる工夫を色々として下さるに違いない。「へぇ……、それは助かります。会長秘書って仕事量も多そうですけど、それに見合ったメリットもあるわけですね」 僕は彼女に心から感謝している。もちろん会長秘書だけの特権に関してもそうだが、僕にここまでやる気を漲らせて下さったことにも。 思えば僕が男女問わず、誰かのために一生懸命に何かをしようと思ったのは、絢乃さんに対してが初めてだった。本気で恋をしたらそう思えるようになるのだと、この時初めて分かったのだ。 クルマを買い換えたのも、スーツを新調したのも、すべては絢乃さんをお支えするためだったのだから。「そう。たからこれから一緒に頑張ろうね!」「はいっ! では、車内へどうぞ。ここでは寒いですから」 僕はお二人を、暖房を効かせたクルマの後部座席へ誘導した。 そして、実は内心、早く絢乃さんに助手席にも乗って頂きたいなぁと思っていた。   * * * * 僕はクルマをスタートさせる前に、絢乃さんたちにIDカードを手渡した。それはネックストラップ付きのパスケースに入れてあって、それぞれ絢乃さんと加奈子さんのカタカナ表記のお名前と十二ケタのナンバーが刻字してある。 僕たち社員が携帯している社員証とほぼ同じものだが、社員証に入っている顔写真がないところが大きな違いだろう。 絢乃さんの会長ご就任が決まってすぐ、我がグループ傘下の〈篠沢セキュリティ〉から発行されたもので、僕はその前日、スーツを買いに行った帰りにカードができたと連絡を受け、その足で受け取りに行ってきたのだった。「紛失されると再発行の手続きが面倒なので、くれぐれも失くされないようにお願いします」 お二人に言ったこの言葉は、実は僕自身の本音でもあった。受け取りに行った時、セキュリティ会社の担当の人からイヤというほど念を押されてウンザリしたからだ。「分かりました。失くさないように気をつけるね」 絢乃さんが苦笑いしながらもそうおっしゃって

  • トップシークレット☆桐島編 ~お嬢さま会長に恋した新米秘書~   オフィスラブ、スタート! page1

     ――そして迎えた、絢乃会長就任会見の当日。僕はおろしたての真っ白なワイシャツとまっさらな濃紺のスーツ、そして絢乃さんから贈られた赤いストライプ柄のネクタイでビシッと決め、黒いコートを羽織ってアパートを出た。足元はこれも新品の、ブラウンの革靴だ。 この日は朝九時ごろに、篠沢邸まで絢乃さんと加奈子さんの親子をお迎えに行くことになっていた。 すでに愛車となっていたシルバーのセダンを運転して、篠沢邸のカーポートに到着したのは九時少し前だった。「――おはようございます。桐島です。お迎えに上がりました!」 インターフォンを押し、「はい」と彼女のキレイな声で返事があったので張り切ってそう伝えた。「すぐに出られるから待ってて」と言われて待っていると、ほんの数分でお二人が出てこられた。……が、コートの下はおそらくグレーのパンツスーツである加奈子さんに対して、絢乃さんの黒いピーコートの下からは裾に赤い一本線の入った膝丈のブルーグレーのスカートが見えていた。このスカート、見覚えがあるけどまさか……? それを確かめる前に挨拶を交わすと、絢乃さんが「あ、そのスーツ……」と僕の新品のスーツに気づいて下さった。「ああ、これですか。絢乃さんがプレゼントして下さったネクタイに合わせて新調したんですよ。どうです、似合いますか?」 僕は気づいてもらえたことが嬉しくて、彼女からのプレゼントだったネクタイに手をやった。彼女は「すごくカッコいい」と褒めて下さったが、まさかスーツを新しく買うとは思っていなかったと驚かれ、「それ高かったんじゃない?」と心配して下さった。 僕は「量産品なのでそんなにかからなかった」と答えたが、実はそれでも三万円くらいかかっていた。ちょっとばかり痛い出費である。一応、ダメもとで経費で落としてもらえないかと領収書はもらっておいたのだが。「それならいいんだけど。桐島くん、その時の領収書かレシートがあったら、その分絢乃に清算してもらえるわよ」 加奈子さんがサラッとすごいことを教えて下さった。目からウロコが落ちるとはこのことかと思った。というか、小川先輩が言っていた「会長秘書だけの特別待遇」ってこのことだったのか……! でも、特別待遇はそれだけではなかった。送迎にかかった交通費やガソリン代も、経理部を通さず会長から直接清算されるのだという。つまり、僕の場合は絢乃さん

  • トップシークレット☆桐島編 ~お嬢さま会長に恋した新米秘書~   新しい日々の始まり PAGE9

       * * * * ――その翌日の朝、珍しい人物から連絡があった。同期入社の久保である。僕が異動してからも同じ社内にはいるのだが、こうして連絡を取り合うことはなくなっていたのだ。『――よう、桐島! 久しぶり!』「久しぶり、ってなぁ。先代の社葬の時にも会ったじゃん」 僕は呆れてツッコんだ。三日前に会ったばかりなら「久しぶり」とは言わないだろう。『ん……、まぁそうなんだけどさぁ。あん時はゆっくりしゃべるヒマなかったじゃん? お前忙しそうだったし。おたくの小川先輩から聞いたよ、お前が会長秘書になったって』 小川先輩と久保は入社当時から顔見知りだったので、ヤツが彼女から聞いたことも僕は不思議に思わなかった。「うん、そうなんだよ。で、明日が俺と絢乃会長の初陣』『らしいな。でさ、その就任会見の司会進行、オレがやることになったからよろしく』「……………………はぁっ!? なんでお前が?」 僕は自分の耳を疑った。記者会見の司会は普通、広報課の仕事のはずなのに。なぜ総務課所属の久保が!? まさか、あの課長が仕事を横取りしたのか!?『うんまぁ、こっちにも色々と事情があんのよ。細けぇことは気にすんな?』「……………………あっそ」 ところが、久保には答えをのらりくらりとはぐらかされたので、僕には何だかそれ以上追及する気が失せた。『――とにかくそういうことだからさ、明日はよろしく。新会長さんにもよろしく言っといてくれよ』「へいへい、伝えとく。じゃあな」 僕は一方的に電話を切ったが、久保からの折り返しはなかった。 この時、僕は出かけようとしていたのだった。クリスマスプレゼントに絢乃さんから頂いたネクタイに合う色のスーツを新調しに、紳士服店まで。 僕が持っていたグレー系のスーツに、あのネクタイは合わない。せっかく正式に秘書就任が決まったので、新しいスーツ姿でビシッと決めて初陣に臨もうと決めていたのだ。 愛する人の側で、カッコいい僕でいるために――。 

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